「またかよ。」ユウヅキくんはつぶやいた。それから、イライラとリモコンの停止ボタンを押した。
「全く、白けるっつーの。」
ユウヅキくんが、なにに怒っているかと言うと、ホラー映画の主人公のつぶやいた台詞に対してである。
ー映画や小説とは違うんだ、こんなことありえない
ユウヅキくんは、この言い回しが大嫌いだ。
「だって、映画や小説じゃん」
と、つっこみたくなる。そのあと、自分が熱心に見ていたものが架空のものだと、はたと気づかされる。一気に白ける。せっかくその世界に楽しく入り込んでいたのに、トンと一押しされ現実に戻されたような気分。
空想と現実の世界の間の壁は薄くてもろい。
「ばっかじゃねーの。」
せっかく、両親そろっての旅行中、居間の一番大きいテレビが使えるめったにない夜なのに台無しだ。
ユウヅキくんはぷんぷん怒り出した。この台詞を登場人物に言わせた脚本家や作家に腹が立ってきたのだ。
ーこんな常套句を恥ずかしげもなくよく使える。ぞの時点でオリジナリティが欠如している。きっと、リアリティがでるとでも勘違いしているんだろうが、逆効果だ。下手な小細工だ。
ユウヅキくんはため息をつき、
ーこれを見たら勉強しようと思っていたのに、おかげで全然する気がしなくなった、どうしてくれるんだ。。
などなど、多少、八つ当たり気味なことも考える。
画面では足がどろどろに溶けた不気味なゾンビが、主人公の部屋に侵入してくるクライマックスシーンだ。
ユウヅキくんは続きを見るべきかどうか少し迷ったあと、再生ボタンを押した。
ゾンビは、ズズ、ズズ、と嫌な音をたてながら動き出した。主人公は青ざめ、ガタガタふるえていた。
その時、ユウヅキくんの背後で、カチャっと扉の開く音がした。
ん?
ユウヅキくんは気のせいだと思った。家には他に誰もいないのだ。
だが、次の瞬間、真後ろからズズズズと音が聞こえた。画面のゾンビは、主人公を食べようかどうか、ためつすがめつしていて、今は動きをとめているから、テレビの音ではない。
じゃぁ、一体全体この音は?
音はどんどん近づいてくる。ユウヅキくんは凍り付いたみたいに振り向けなかった。画面では、ゾンビが主人公をむさぼり食いはじめた。
ーありえない、こんなことはありえない。
とりあえず、ユウヅキくんは映画や小説じゃあるまいし、とは考えなかった。
ユウヅキくんの肩に、冷たい手がおかれる。空想と現実の壁は薄くてもろい。
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