庭に立っていたら、妖精が泣きながら歩いてきた。いい天気のさわやかな朝のことだ。
ぼくは彼女に「おはよう。どうしたの。」と聞いてみた。
「羽をなくしたの。どこにもないの。」
見ると、彼女の背中には、うっすらピンクの痣があった。羽のあとだった。
「よく探した?」
「えぇ。花壇も見たし、茂みにも入った、楡の木にだって、てっぺんまで登った。でもないの。」
あの木を、羽もなく、こんな小さな体で登ってしまうことにぼくは感心した。
人ににたとえるなら、東京タワーを何の装備もなく登るようなものだろうか。
「狭い庭なのに、おかしいわ。」
庭の主としては、気分のいい発言ではなかったが仕方ない。こんなに悲しんでる妖精を怒れるわけもない。
彼女がシクシク泣き続けるので、ぼくは提案した。
「ねぇ、あそこの穴はコビトの穴だよ。羽がないと、君はコビトみたいだ。いっそコビトになっちゃえばいいんだよ。」
彼女は、一瞬目を見開いて、ぼくをじっと見た。
「そんな。。でも、そうね、それがいいかもしれない。うん、そうする。」
指示語を4つ使った短い逡巡のあと、彼女は素早く駆けだして、穴の中に飛び込んだ。
急にしんとして、静かな朝が戻ってきた。太陽は乾いた光を庭にしきつめる。今日はいい一日になりそうだ。
それにしても、彼女は怒るだろうか?
ぼくが彼女の羽を持っていると、知ったら。
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