夢緒 見子さんの彼氏は、無職でミュージシャンだ。無職でミュージシャンという言い方はおかしいが、ミュージシャンとしては、お金を全く稼げないので仕方ない。
夢緒 見子さんは、キャリアウーマンで、外資系のトレーダーをしていた。マイペースで、ちょっと変わったところもあるが、知的な美人で仕事もできる。彼のギターために防音室も用意してあげられる位のお金も持っていた。
彼は優しくて、どちらかと言えばハンサムだったけれど、友達はなんで彼女が彼とつきあうのか不思議がった。夢緒 見子さんは、結構もてたし、その気になれば、もっと条件のいい男の人とつきあうこともできたからだ。でも、みんな、もしかしたら、とも思った。彼女なりの、大穴狙いな投資なのかも、と。
そして、ある日、ひょんなことで、彼の音楽はお金を生み出すようになった。たくさんのドラマや映画のクレジットに名前がのるようになった。時の人として、お洒落な雑誌の表紙を飾り、インタビューでは気のきいたジョークを言ったりもした。
友達は夢緒 見子さんの見る目に舌を巻いた。
そして、やっかみ半分、心配半分、彼が彼女を捨ててしまうんじゃないかと思った。ーよくあることのように。
だが、しばらくして彼は、レストランを予約して、大きなダイヤの指輪と花束で彼女にプロポーズした。
友達は舌を巻きすぎて、喉を詰まらせそうになった。夢緒 見子さんの見る目は本物だった。投資は大成功だ。
でも、夢緒 見子さんはあっさりとプロポーズを断ってしまった。
彼は彼女のためにラブソングを作り続ける。でも彼の音楽は、もう彼女に届かない。何かが微妙に、でも、夢緒 見子さんにとっては決定的に違ってしまったのだ。
友達は、夢緒 見子さんは、本当に変人なんだと思った。
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